料理人から学ぶ
音響のミクシングについて話しをするとき、よく料理を例えます。
聴覚と味覚の違いはあるのですが、共に感覚で勝負をする仕事で、その善し悪しについて明確な答えは出しにくいものです。
昔のことですが、帝国ホテルの料理長の話しを興味深く聞きました。
ミクシングの修業も料理の修業も同じようなところがあるようです。
料理は体力がいるそうで、そのため女性のコックは少ないそうです。それとは別に、すぐに包丁を持ちたがる者が多いそうです。
まず、鍋を洗うことを率先してやって、鍋についている先輩の味を盗み取ることが本当に大切だ、と料理長は言っていました。
まるで、音楽の本質を知らずに音響調整卓のフェーダを握りたがる新米の音響家のようでもあります。
しかし、昔は体で覚えた料理も、今では頭を使わなければと料理長は言います。
材料を吟味して、うまく味付けをし、そして視覚的にも楽しませることまで考えなければならないのです。
人それぞれ味の好みは違います。それでも、いかに満足させるかが問題です。
舞台芸能を創造するのと同じ苦労です。
人間の最終的な欲望は自己表現であって、つまり、大勢の人に美しいものを見せたり聞かせたり味わわせたりすることです。そして客が喜んでいる姿を陰から見て生きがいを感じているのです。
ところで日本の料理人の世界では、古くから先輩の技は盗んで学べということでしたが、フランスでは新人にどんどん教え込み、早く自分を楽にしようとするそうです。
最近、ミシュランから三つ星をもらった京都の料亭の料理長が曰く。
新人には早く一人前になってもらわなければ困るので、どしどし教えていると言ってました。
そして全員に専用の冷蔵庫を与え、食材の管理は個々に責任を持たせているのです。このように、責任を持たせると成長が早いのです。
そう、給料を払って遊ばせておくのはもったいのです。
舞台の世界も、先輩の技を盗め!などと悠長なことを言っている時代ではなくなっています。
以前、"社員が一人前になると辞めてしまうので、高レベルの社員を育てないのだ" と言っていた経営者がいました。
それは、見合った給料を払わないからで、使いものにならない社員を低賃金で雇って、経営者だけが儲けている時代は既に終っています。